ものまねは、なぜ為され、どう受け継がれてきたか
ものまね芸というものに私がハマったのは、1980年代後半から90年代前半にかけて、コロッケ、清水アキラ、ビジーフォー(グッチ裕三とモト冬樹)、栗田貫一の「ものまね四天王」が破竹の勢いだった頃だ。彼らがしのぎを削る、年に三度の「ものまね王座決定戦」(フジテレビ系列)は必ずビデオ録画して、親が呆れるほど、目の色を変えて繰り返し見た。
その後、ものまね小説(清水義範などのパスティーシュ小説)へと興味が移ったこともあり、情熱は薄まったが、全盛期の対戦結果を詳述するウェブサイト「ものまね王座決定戦データベース」は、何度となく読んでいるのに、今なお読み返してしまう。初めて閲覧したときは、そのユーモラスかつ鋭い批評に驚いたが、後年、サイト主がクイズ作家の日髙大介と知った際には、氏の意外な多面性にさらに驚いたものだ。
ただ、私は日髙と同世代なので、あの頃の「ものまね王座」にハマった同士として(また同じ栗田貫一ファンとして)、つぶさに記録を残しておきたくなる気持ちというか使命感は、わからなくはない。ノスタルジーもあるし。
本書を手にとり衝撃を受けたのは、れっきとした学術書に、コロッケや清水アキラといった人物名が躍る珍しさもさることながら、1995年生まれという著者の若さだった。ものまね番組全盛期をリアルタイムで視聴していない世代の(加えてシブいことにグッチ裕三ファンだという)著者が、ものまね四天王、ひいては現代ものまねの歴史について論じたというのだから、信じられなかった。
卒業論文、修士論文、査読論文の三本が収録されている。著者は現代ものまねの歴史と変遷をたどりつつ、ものまね芸が持つ機能、ならびに、その表現形式が伝播し定着する過程を考察する。
まずは、これまで漠然としていた「現代ものまね史」を、多方面にわたる資料を駆使して体系化する、きめ細かい手さばきに感服した。古川ロッパの「声帯模写」にはじまり、桜井長一郎、ものまね御三家(堺すすむ、佐々木つとむ、はたけんじ)、団しん也、ものまね四天王、コージー冨田、ミラクルひかる、「細かすぎて伝わらないモノマネ」を経て、ハリウッドザコシショウの「誇張しすぎたものまね」にいたるまでの流れを、主に誇張表現の変遷に着目して一本に結ぶ。江戸屋猫八、タモリ、松尾貴史、清水ミチコらの位置づけも、ぬかりなくフォローされた通史は、戦後文化史に足を踏み入れる者にとって、重要な教科書となるだろう。
ネタの伝播に関する考察も興味深い。たとえば森進一をまねる際、多くが「こんばんは、森進一です」と挨拶する。別に森進一本人が多用していたわけでもないのに、何故に必ず「こんばんは」なのか。いったい誰が言い始めたフレーズなのか。同様のことが、三波春夫をまねる際の「お客様は神様です」、坂上二郎をまねる際の「飛びます飛びます」などにも言える。
そういった、ものまね技法の源流を確認した上で(森進一のフレーズは堺すすむが元祖とのこと)、徒弟制度が稀なものまね界において、技法が継承される経緯を、ジーン・レイヴとウェティエンヌ・ウェンガーの提唱した「正統的周辺参加」を鍵に探っていく。対象人物をまねると同時に、先行する芸人の〝模倣[もほう]の仕方〟をも模倣する、ものまね芸人の二重性が浮かび上がる。先行する芸人とは異なる「切り口」こそが、ものまね芸人のオリジナリティになる、という指摘が、逆説的で面白い。
キュビズムを援用してコロッケの芸風を噛み砕いたり、アメノウズメの憑依[ひょうい](霊の模倣)と重ねて、なかじままりの芸風を掘り下げたりといった、時に披露される個々の芸人論も読みでがある。この調子で今度は、現代ものまね芸人列伝を書いてほしくなる。
けれども、それが叶わないのが残念でならない。本書は、2024年に28歳の若さで病死した著者、関谷大陸の遺稿集でもあるのだ。
大学時代の教員や仲間、ものまね研究の同志でもあった、ものまね芸人のレッツゴーよしまさ等、多くの関係者が寄稿し、著者の母親が「あとがき」を綴り、様々な思い出を振り返る。ある仲間が伝えるには、闘病当時の著者は「自分の生きた証として論文を書いている」と語っていたそうだ。たとえどんな状況でも、好きなことに、とことん情熱を注ぐ、その気概をまねたくなった。

関谷大陸[せきや・たいりく] 1995年大阪市生まれ。大阪大学人間科学部卒業。2021年、大阪大学大学院人間科学研究科博士前期課程修了。大阪メトロ勤務。大学在学中から「ものまね研究会」の名で活動。人間科学・人類学の視点から「ものまね」の研究と実践を続けた。大阪検定では史上最年少で1級を取得、その後三年連続で1級を保持。大阪検定客員研究員として、大阪文化・観光に関する研究活動も行なった。2024年逝去。

さとう・やすとも 1978年生まれ。名古屋大学卒業。文芸評論家。 2003年 、「『奇蹟』の一角」で第46回 群像新人文学賞評論部門受賞。その後、各誌に評論やエッセイを執筆。『月刊望星』にも多くの文学的エッセイを寄稿した。新刊紹介のレギュラー評者。
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