【BOOKS】地球の歩き方編集室『地球の歩き方 スター・ウォーズ』◎佐藤康智

はるかかなたの銀河系から足立区まで

 フォースなるエネルギーをあやつるジェダイ騎士の攻防を軸に、銀河をめぐる長大な戦史を描くのが『スター・ウォーズ』シリーズである。ジョージ・ルーカス監督脚本による第1作が劇場公開されたのは1977年(日本公開は1978年)。以来、多くの続編、スピンオフ作品が、撮られ続けている。 
 一方、日本の個人旅行者向けの、世界をめぐるガイドブックとして愛読されてきたのが『地球の歩き方』シリーズである。初めて書店に並んだのは1979年だが、山口さやか・山口誠『「地球の歩き方」の歩き方』によれば、その誕生は、ダイヤモンド・ビッグ社が企画した海外ツアーの販売促進グッズとして非売品の「ヨーロッパ編」が創刊された1976年に遡るという。 
 本書はそんな、約50年前、1970年代後半に産声をあげた2つのシリーズの、夢のコラボといえよう。両方のファンである私は、超光速で手が伸びた。 

 海外旅行が困難なコロナ禍を経て、『歩き方』は新たに、物語世界のガイドをも試み出す。雑誌『ムー』(これまた1979年創刊)や、漫画『ジョジョの奇妙な冒険』とのコラボなどが大いに話題となった。ディズニーアニメの舞台を紹介する巻も刊行されている。だから『スター・ウォーズ』とのコラボも、とうとう来たな、といった感じだ。 
 ちなみに『歩き方』はコロナ禍以降、日本国内も扱うようになった。次回刊行は『地球の歩き方 足立区』(2026年9月発売)とのこと。10年前なら思いもつかなかったシブい世界線だ。今や海外のみならず、はるかかなたの銀河系から、東京都の足立区まで、幅広くフォローするのが『歩き方』シリーズなのである。 

 もし『歩き方』が『スター・ウォーズ』の物語世界を案内したなら? というのが本書のコンセプトだろう。この明快な理念を徹底している点が、期待通りで良かった。当然といえば当然だが、紹介文も、〝だ止め〟と〝体言止め〟を基本とし、読点少なめに情報を流し込む、いつもの『歩き方』文体を貫いている。一種のパスティーシュ(文体模倣)作品として読みでがあった。 
 いわゆる「正史」の設定を壊してはならない、という縛りがきつそうな中で、端々に『歩き方』らしい気遣いが挿入されるのにも、クスっとさせられる。 
 たとえば都市惑星コルサントの、治安の悪いアンダーワールドについては「どうしても訪れるなら、最低限の武装と準備を整え、人通りの少ない場所はひとりで歩かないなどの注意を」(←「最低限の武装」⁉)。ダース・ベイダーが誕生した惑星ムスタファーについては「高温と有毒ガスの危険があるため防護服は必須」(←「防護服」⁉)。惑星エンドアの衛星に位置する原生林豊かなブライト・ツリー村については「森を汚さぬよう、ゴミは必ず持ち帰ろう」(←は、はい……)。また、旅の持ち物として薦められるのも、バックパックではない。ジェットパックだ。 
 コルサントの人口が「約1兆人」、ガス惑星ベスピンの1年の長さが「5110日」といったデータも詳細で、そこまで密な公式の設定があったのかと驚かされる。ルーク・スカイウォーカーが愛飲する――初期『歩き方』の小口(本の断面)に着色されていた水色を想起させる――「ブルー・ミルク」の正体も、初めて知って驚いた。 
 ロケ地に関するモデルプランも提示される。砂の惑星タトゥイーンのロケ地となったチュニジア旅行4泊6日のプランは、そのうちの4日を移動に費やすという、かなりのグレートジャーニーだ。ネタかな?と一瞬思ったものの、『歩き方』の紹介ゆえ説得力がある。ディープなファンなら聖地巡礼に足を踏み出すことだろう。 

 とまあ、私のような初心者ファンから、熟練ファンまで、幅広く楽しめそうな趣きの本書だが、発売時期のタイミングがあってか、劇場版最新作『スターウォーズ マンダロリアン・アンド・グローグー』に関しては、ほんの少ししか触れられておらず、非常に惜しい。とはいえ、改訂に次ぐ改訂もまた、『地球の歩き方』のお家芸。いつか、最新データを補足した、満を持しての改訂版が出るのを心待ちにしたい。 

『地球の歩き方 スター・ウォーズ』

地球の歩き方編集室  

Gakken 2750円(税込) 

佐藤康智

さとう・やすとも 1978年生まれ。名古屋大学卒業。文芸評論家。 2003年 、「『奇蹟』の一角」で第46回 群像新人文学賞評論部門受賞。その後、各誌に評論やエッセイを執筆。『月刊望星』にも多くの文学的エッセイを寄稿した。新刊紹介のレギュラー評者。

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