【BOOKS】攪上久子・掃部郁子・渡辺浩子 編著『ことばを超えて ことばを残す―ふくしま 本が紡いだひとたちの15年』◎吉野典子

大震災から15年 絵本を届けた女性たちの記録

 子どもの本の巡回展や普及活動を通じて交流があった3人の女性が、東日本大震災直後「被災地に絵本があったらいいんじゃないか?」と集まって、放射線災害の地に絵本を届ける支援「野馬追文庫」を始めた。そこで出会った人たちが現在まで何を考え、どう動いてきたかをメールのやりとりと個人への取材で振り返る。 
 1章は大震災を経験した人たちの記憶、2章は「野馬追文庫」(2011年8月~2016年6月。以降、形を変えて継続中)の経過と賛同者たちとのやりとり、3章は活動を通して出会った人たちへの取材記事。編著者の感想・主観を極力排したありのままのことばには、話し手たちの戸惑いや感情のゆらぎが滲む。 

 福島県南相馬市は、地震・津波・放射線被害の三重苦に苦しめられた地域の一つである。仮設住宅集会所36ヵ所へ毎月絵本を届ける活動について、編著者の攪上[かくあげ]久子さんは母校であるお茶の水女子大学の同窓会組織「ジネット」にも意見を仰いだ。児童学科など子ども学関連学科の組織である「ジネット」はすぐに会員から募金を集め、約7年間に渡り支援を続けた。保育・児童学を学ぶことは支援の基本的な根本の学びにもなっていることを、攪上さんは実感したという。 

 福島では果樹農家・阿部一子さんが「ここで農業をして生きていくために何ができるのか?」と考え続けてきた。自前の線量計で畑を測り農園だよりで発信、少しでも梨畑を良い状態にしたいと奮闘しているが、夫の「オレは、ここで生きていくって決めたのだから、いろいろな人の話を聞いてもしょうがないから(聞きに)行かないんだ」という潔さをカッコいいとも思う。自称「原町のおばあちゃん」梶田千賀子さんは、子育てする人の居場所として自宅のひと部屋を絵本だらけにして「ちゅうりっぷ文庫」を主宰している。たった一人でも訪れるお友達(子ども)があれば良いと部屋を開け、手伝いの姉に「それでいいよね」と言っている。カバー挿画を描いたのは南相馬市出身の絵本作家・小原風子さん。志に賛同し「うちで出しましょう」と出版を快諾した生活書院の担当者も福島県出身。本の帯には「正解などわからない。ひとりひとりができることを精一杯やった」とある。 

 詩人で国語教師の和合亮一さんは様々な復興イベントに関わる中「何かを創ろうという働きかけを、仲間たちとできたことが大きかった。(中略)何かを残したというよりも、みんなで空気を変えることができたというのが、一番大きかった」と振り返り、絵本の活動の語源となった祭りについて「相馬野馬追(夏に開催される1000年続く祭。国の重要無形民俗文化財)の中心的役割の方が家族も失って『何が祭りだ』という気持ちになっていた時、泥から引き揚げた甲冑や武具を一生懸命洗って……きれいにしているうちに、やっぱりやろうと思ったと。(中略)何かを祓い清めていく……そこで空気が変わっていく。そういう力を持っているのが祭りなのかなぁと」。 

 絵本を届ける活動も記録を残すことも、祓い清めの過程と思える。何かを創ろうと働きかけ、仲間たちと空気を変えよう、やっぱりやろうと思ったのだろう。 
「もしかしたら普遍的なものだからいつか腑に落ち、残しておけばなにかの役に立つこともあるかもしれない」と編著者の掃部[かもん]郁子さん。 
 時間の経過と共に被災地は復興から発展へとスローガンが変わり、人々の間に支援される側を卒業したい、語りたくない気持ちが強くなっているという。「野馬追文庫」も今、ゆるやかに活動の幕をおろそうとしている。だから困難の15年を知る人の中で「書ける人が書く」と掃部さんは言う。ことばに変えておかなければ、消えてしまうから。 

ことばを超えて ことばを残すふくしま 本が紡いだひとたちの15年』 

攪上久子/掃部郁子/渡辺浩子 編著  
生活書院  2420円(税込) 

編著者略歴

攪上久子  公認心理士。バリアフリー絵本研究会主宰。著書に『共に育つ社会のドキュメント:日本のバリアフリー絵本の展開と課題』(樹村房、2026年)。
掃部郁子 フリーライター。福島県在住。福祉・医療・震災ボランティア関連の記事を多く執筆。NPO法人うつくしまブランチ理事。
渡辺浩子  グラフィックデザイナー。NPO法人うつくしまブランチ代表理事。東日本大震災後、国内外の子ども支援プロジェクトの窓口として活動。

吉野典子

よしの・のりこ 1960年、神奈川県生まれ。フェリス女学院大学国文学科卒。里山近くの築半世紀の団地で、昭和の布とアフリカ布で洋裁をしながら時々執筆、時々カルチャースクール講師。写真は自作の服。 

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