【BOOKS】新田理恵著/『無理せず回復する時間栄養学のきほん』◎松永裕衣子

あなたは「いつ、何を、どのように」食べていますか?

 同じ内容と量の食事をとっていても、食べる時間帯や順番によって効果が大きく異なることは、いまではよく知られている。時間栄養学とは、いつ・何を・どのように食べるかが健康や心身にどう影響を及ぼすかを、人間に備わる「体内時計」のメカニズムから解き明かそうとする新しい学問で、本書では時間栄養学の第一人者である柴田重信教授のもとで学んだ成果を、初心者向けにやさしくまとめている。 

 薬草調合師でもある著者の新田さんは、社会人大学院で学んだことにはもっと早く知りたかった生活の基本がたくさんあり、生命活動と回復を助ける多くの知恵が詰まっていた、と語る。たとえば一日の栄養摂取は朝・昼・晩にどう配分するか、集中力や免疫力を上げるにはどうしたらよいか、朝型化になるための食べ方や習慣、といった具体的なアドバイスから、睡眠と時間栄養学の関係、体内時計はどのようにリセットされるのかなど、時間栄養学とは何かを理解する上で必要な基礎知識まで、本書の扱う範囲は意外に幅広い。 

 著者が推奨する朝の光を浴びる、遅い時間の夕食や夜食は炭水化物と脂肪を控える(どうしても夕食が遅くなってしまう場合は主食を先にとる)、夜の強い光は避ける、平日と休日の起床時間が大きくずれないようにする、といった習慣は自律神経の調整にも役立っている。朝食は起床後1時間以内にとると体内時計が整いやすいという柴田教授の教えはとくに有用で、すでに定説となっている。 

 体内時計と食事との関係に着目した時間栄養学は、それまでの栄養学とは一線を画す。従来の栄養学では何をどれだけ摂取するかを、主に1日ないし1週間単位でカロリーや三大栄養素との関連からとらえ、栄養バランスの調整や体重管理を主な目的としている。一方、時間栄養学にはいつ・どんなリズムで食べるかという視点が加わり、体内時計(概日リズム)との連動から、朝食摂取の重要性や夕食のタイミングと質に注目する。そして肥満・病気の予防、体内時計の正常化をめざす。 

 哺乳類に約24時間周期で変動する「時計遺伝子」が備わっていることが発見されたのが1997年。時計遺伝子は睡眠・覚醒や体温、血圧、代謝、ホルモン分泌など全身の生理機能を制御している。しかも時計遺伝子が司る体内時計はひとつではなく、脳にある主時計と、さまざまな臓器や細胞に存在する末梢時計がそれぞれ違ったリズムを刻んでいて、朝の光や食事によって同期・リセットされるというのは驚きだ。さらに2017年、時計遺伝子の分子メカニズムの解明によって、アメリカの研究者三人がノーベル生理学・医学賞を受賞したことで、世界的に多くの耳目を集めた。 

 興味深いのは、体内時計は進めたり遅らせたりすることもできる点で、たとえばインスリンが出やすい(GI値の高い)食べ物をとると時計遺伝子の働きが加速するため、朝に食べれば体内時計が前倒しに、夜に食べれば逆に後ろ倒しになる。食事の時間だけでなく、起床・入眠の時間、風呂に入る時間や運動時間の見直しも体内時計の調整に役立つ。 

 日本で最初に時間栄養学に関する書籍が出版されたのは2009年のことで、『時間栄養学 時計遺伝子と食事のリズム』は、学者たちの最新研究をまとめた専門書だった。そして『時間栄養学が明らかにした「食べ方」の法則』(2014年)は最初期の一般書で、著者が大学院へ進むきっかけとなった。歴史がまだ浅いだけに、時間栄養学に関する書籍の数は限られているが、今後研究と解明が進むにつれさらに活気を増す、注目の分野であることは間違いない。  

無理せず回復する時間栄養学のきほん』 

新田理恵 著
アノニマ・スタジオ 1870円(税込) 

著者略歴

新田理恵[にった・りえ]  TABEL株式会社 代表/薬草茶司/修士(理学)。管理栄養士であり国際中医薬膳調理師。食を古今東西の文化と学問からとらえ、すこやかで慈しみのある食卓を提案する。時間栄養学の研究も手掛け、ポッドキャスト「時間栄養学のじかん」を配信しておりUJA論文賞を受賞、Apple Podcastsの健康カテゴリーと栄養サブカテゴリーで1位を獲得するなど注目を集める。2014年から日本の薬草文化のリサーチをはじめ、各地を紡ぎながら伝統茶{tabel}を立ち上げる。2018年より薬草大学NORMも運営し、大企業や行政とのコラボなども展開し、薬草文化のリバイバルを目指して活動して監修や講演・大学での授業なども手掛けている。著書に『薬草手帖』(アノニマ・スタジオ)『薬草のちから』(晶文社)がある。 

松永裕衣子

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柴田重信『食べる時間でこんなに変わる 時間栄養学入門――体内時計が左右する肥満、老化、生活習慣病』(講談社ブルーバックス、2021年) 

まつなが・ゆいこ 1967年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。千代田区・文京区界隈の中小出版社で週刊美術雑誌、語学書、人文書等の編集部勤務を経て、 2013年より論創社編集長。

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